ふろしき Blog

コンテンツサービスを科学する株式会社ブートストラップ代表のブログ

企業にモバイルを適用する方法「MEAP」の全貌を掴む(4) - IBM Worklight編

企業にモバイルを適用するにはどうすればよいのか?そのための答えの一つに、MEAPが力を持ち始めています。

もちろん、MEAPが解決方法の全てというわけではありません。MEAPはベンダ色が強く出るため、毛嫌いする人も少なくないようです。マイクロソフトやアップルのようなプラットフォームを持つベンダも、そのメリットを活かした戦略をいくつか打ち出してはいるものの、やはり、ベンダに強く依存してしまうことに変わりないようです。このあたり、W3Cでも全く動きが無いというわけでもなく、技術革新の途中であるため、オープンな仕様が作りにくいというのが実情にも思えます。

MEAPと呼ばれている製品の本質的な価値はなんなのか?一体企業のどこを変えるのか?そのことを追い求めて、Sencha Space→SAP Mobile Platformとベンダを横並びにして評価してきました。しかしそれも今回で最終回です。今回味見するのは「IBM Worklight」です。

前回の紹介したMobile Platformは、買収を繰り返し色んな製品をくっつけてきたという歴史的経緯からか、モバイルの抱える課題に対する分類学的なものが比較的進んでいました。Mobile Platformというのは製品の集合体に対して与えられた呼び名みたいなもので、いわば「Microsoft Office」みたいなイメージです。UIを作るならSAP UI5を使えだとか、プラットフォームにSAP AppBuilderを使えとか、色んな製品が目的ごとに別れており、しかもこれらの独立性はやや高めだったりもします。(→Wireless Platform2の時代はそうだったので、今もそうなっているだろうという想像ですが。)

ところが、IBM Worklightは、一言で言えば「モノリシック」という印象です。IBMは2012年2月、Worklightと呼ばれるモバイルソリューションのベンダを買収し、その延長線上に今があります。複数の製品を繋げていないからか、Worklightはそれだけで一つの製品として収まっている感じになっています。SAP Mobile Platformに感じるような「製品群」という印象がありません。

f:id:furoshiki0223:20150204171259j:plain(参考:日本アイ・ビー・エム佐々木志門「IBM Worklight@html5j Enterprise Night Seminar」)

IBMは、機能を網羅的に埋め、企業向けクライアント全般の統合を進めようという方針なのか?

IBMのモバイルに関しては「網羅的に攻めている」という感触を得ています。あくまでこれは筆者の愚考としてですが、IBM Worklightは特徴の無いというのが特徴、ある意味「王道感」のようなものを感じています。世の中にはMEAP製品は星の数ほど溢れていて、実装している機能もマチマチです。A製品にはあるのにB製品には無い、またその逆もしかり。そんな状況の中、IBM Worklightは一通り一般的な機能を取り揃えている感じがします。

またIBMは、MEAPに限らず、エンタープライズモバイル市場全体で見ても、その動きには「網羅性」に対する意識が読み取れます。この2014年の夏は、各製品ベンダがエンタープライズモバイルで覇権を握ろうと特に大きな動きをみせているのですが、IBMはその動きが特に派手です。例えば・・・

日本アイ・ビー・エムは6月末に、「MaaS360」と呼ばれるエンタープライズモバイルの管理基盤の提供を開始しました。他社だとSencha Spaceも管理基盤を、クラウドサービスとしてこの秋に出そうという動きがあるようですが、IBMがまさに先手を打ったという次第です。私が思うに、今後このMaaSの機能は、コモディティ化が進み一般的になるのではないかと睨んでいます。当然ですが、日本企業が欲しがるようなオンプレミス版も提供されています。

また、IBMは7月に入り、今度はIBMとAppleでのエンタープライズモバイル分野での提携をアナウンスしました。実はここ最近Appleも、Swiftで世の中を騒がせている裏で、密かにビジネス向けアプリへの進出を始めていました。知らない人が多いというのが実情で、実際に彼らもそこまで大声でPRしてはいなかったように思えます。そんな彼らが、エンタープライズモバイルに全力で、しかも網羅的に攻めよう、どんな切り口でも行ってやろうという感じのIBMと組むのは、世の中が感じているほど不思議なものには思えません。AppleはIBMの持つエンタープライズ製品を活用し、新たな分野の開拓を狙っているようです。

そしてトドメに。彼らはMEAP製品のことを何と呼んでいるか?「エンタープライズ・アプリケーション・プラットフォーム」です。モバイルというキーワードはありません。彼らはモバイルとデスクトップの壁すらも取り払い、企業システムはモバイルファーストな、デバイスの壁の無い世界に進むものと捉えているようなのです。

「企業にモバイルが入るなんてありえない」なんてことが日本の企業の殆どの現場の意見なのかもしれません。しかし、Windows8然り、多くの製品がモバイル前提の作りに変わりつつあります。ブラウザもまた、今ではモバイルにとっての最適となることに注力しています。デスクトップに対する関心は、殆どと言ってよいほど失われています。そうなると、HTML5を含めWeb標準の担うべき役割は、今までネイティブが主役だった領域すらも巻き込み、今まで以上に重たいものになるのではないでしょうか。

f:id:furoshiki0223:20150204171300j:plain(参考:日本アイ・ビー・エム佐々木志門「IBM Worklight@html5j Enterprise Night Seminar」)

開発時は柔軟に、幅広いプラットフォームを扱える方針

もう少し、Worklightについて気になったポイントを語ってみます。MEAPとしての機能は、実際のところSAPなどが出しているのとほぼ横並びで、切り口だけが異なるといった状況です。ただ、彼らはやはりモバイルという前提自体を取り払おうとしているからなのか、WindowsのストアアプリやWebアプリを含めるなど、他のMEAPと比較して、動作対象のプラットフォームは比較的幅広く持たせてあるという印象です。

MEAP製品の多くは、HTML5を活用したハイブリッドアプリが前提のものが多かったりします。しかし、IBM WorklightやSAP Mobile Platformは、ネイティブアプリの開発もできます。ハイブリッドはどうしてもパフォーマンスに課題を抱えがちなので、こうした問題に対する逃げ道を作っているわけです。もちろん、ハイブリッドアプリだからこそできるような、ワンソースでAndroidからiOS、Windows Phoneまで、一通りのネイティブアプリが作れてしまうという大きなメリットは失われてしまいます。企業向けシステムを、わざわざネイティブで作る必要性は年々失われつつあるように思えますが。

f:id:furoshiki0223:20150204171303j:plain(参考:日本アイ・ビー・エム佐々木志門「iOS/Android/Windowsストア・アプリのハイブリッド開発における限界と可能性 」)

あと、とても地味な情報ですが

始めるだけなら、もの凄く楽です。が

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EclipseのMarketplaceで「Worklight」と検索すれば出てくるし、プロジェクトもこんなんでいいのか?というほどにさくっとできてしまいます。Eclipseってもっと、面倒なことがいっぱいあるという印象しかなかったので、私的は結構目からうろこでした。

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ビルドするだけなら特に説明を読まなくてもサクサクっといけるという印象です。気持ち悪いぐらいに、手軽な感じがします。UXの求められる時代に、説明書なんてついてくる製品がまだ存在するのか?というツッコミはさておき。Eclipseはセットアップに時間がかかるという問題があり、最近はVisual StudioやIntelliJにシェアが奪われつつあるようですが、流石は開発元のIBMだけあって、このあたりは頑張っているという印象です。

ただ、MEAP、・・・というよりHTML5によるハイブリッドアプリ開発全般の問題点なんですが、デバッグが困難という問題はまだまだ改善を待たなくてはけないようですね。今後多くの業務系開発者が関わる可能性が高い分野なので、技術進化が待ち遠しいところです。

最後に

5ヶ月にも渡り続いたMEAP特集も、これで終わりです。実は、この記事の連載中にも日本国内の色んなところでMEAP製品が出てきています。私の感覚では、30製品ぐらいゴロゴロと転がっているという印象です。というか、私の所属している会社もMEAPっぽい何かを売っていたりするので、大手ベンダだとどこでも何かしら持っているような印象があります。世はまさに、モバイル戦国時代といったところでしょう。

モバイルで企業向けシステムはこれからどう進化していくのか、そのことを探っていくため、翔泳社のDevelopers Summit 2014 Summerにて、パネルディスカッションを開くことにしました。Oracle、Microsoft、SAP、IBMと、モバイル製品にガンガン投資し、これからの企業向けシステムの進化を促そうとしている製品ベンダを揃えています。面白いトークができるのではないかと思っていまして、今から私もワクワクしています。ご参加下さい。

このブログの筆者について

川田 寛

コンテンツサービスの開発や運営代行を専門とする集団「株式会社ブートストラップ」の社長です。ネットではふろしきと呼ばれています。

2009年にNTTグループへ新卒入社し、ITエンジニアとしてクラウド技術・Web技術の研究開発と技術コンサルティングに従事。2015年よりピクシブに入社し、エンジニアリングマネージャー・事業責任者・執行役員CCOなど、様々な立場からコンテンツサービスの事業づくりに関わりました。2021年にメディアドゥへVPoEとしてジョインし出版関係の事業に関わったのち、2023年に独立しています。

関わってきたインターネット事業としては、ECサービスのBOOTH、UGCプラットフォームのpixiv(主に海外展開)、制作ツールのpixiv Sketch、VR・VTuber関連ではVRoid、Wikiサービスのピクシブ百科事典など、10を超える多様なCtoCコンテンツサービス。また、NTTドコモのすご得コンテンツ、メディアドゥのWeb3サービスであるFanTopなど、いくつかのBtoCコンテンツサービスにも関わってきました。

幸運なことに、私はコンテンツに関係する幅広いインターネットサービスのテクノロジー&ビジネスの知識を得ることができました。これを日本のコンテンツ発展に役立てたいと思い、株式会社ブートストラップを創業しました。

このブログでは現在、出版社やIPホルダー、ライセンサーといったコンテンツに関わる人々に向けて、インターネット事業に関するTipsや業界内のトレンドなどの情報を発信しています。私と話をしてみたいという方は、以下のフォームより気軽にご連絡ください。

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