ふろしき Blog

コンテンツサービスを科学する株式会社ブートストラップ代表のブログ

不景気っぽいので急いで起業することにしました #退職エントリ

1年半ほど務めたメディアドゥを卒業することになりました。NTTグループで6年半、ピクシブで6年半と、比較的長期間に渡って会社に所属していたため、今回ももう少し長く在籍しようと考えていましたが、様々なタイミングが重なり、短期間で退職することに決めました。

このタイミングで起業を考えている人たちが他にもいるような気がしています。そういった方々の参考になればと思い、私なりに調べたこととか、起業した理由をできるかぎり幅広い人に読めるような形で残しておきます。

理由1. 不況だから。

「最近、不況だね」という言葉をよく耳にします。知人と飲みに行ったら、レイオフされて今転職活動をしているとかいう話になったり。会社を倒産させてしまったり、資金調達が遅れて困っている知人なんかもいたり。そういう姿ばかりをみていると、少なくとも私の所属しているコミュニティでは不況の影響を受けているように感じます。

そんな状況を目の当たりにして「絶好のタイミングだし今こそ開業しなければ!」と焦りを感じたのでした。これは、私のキャリアの成功体験として「周りの評価がネガティブな場所に進出する」というものがあるからです。

私はかつて、「HTML5」という技術を推進していました。後にこれは「フロントエンド」という業界内でも広く知られた技術へと発展するのですが、私が推していた当時はこの技術を習得しても仕事には結びつかない状況でした。周囲の大人たちもネガティブな評価を下していたのですが、「面白いから」「これから何かが起きそうだから」という理由で人生を丸ごと投じた趣味として関わっていました。

3〜4年ぐらいすると、その技術は世の中から注目を集めるようになりました。企業の偉い人たちが興味を持って食いつくようになりました。その勢いに乗って、先行者利益のような形でモテはじめました。色々なチャンスが転がってきて、身に余るチャレンジができたのでした。正直なところ、自分の能力の有無とかは全くもって関係なく、周りの勢いによって勝手に自分が上昇しただけだと思っています。

盛り上がっている業界・技術に対して、正面からぶつかって勝てるのは才能があって優秀な人のみです。私は凡人ですので、熱気にあふれて、たくさん競争相手がいるような状況に飛び込んでも1%も勝てる見込みは無いと思うし、合理性だけでみるなら完全な悪手だと考えてしまいます。優秀な知人たちがネガティブな反応を示した時こそ、参入チャンスだと感じてしまう体質みたいになっています。

今回も、まさにそのパターンです。

「不景気っぽいし、今じゃないのでは?」とはっきり言われたのが、決定打でした。

理由2. お金がなんとかなりそうだから。

私はまだ経営者歴8日目で、まだ開業届すら受理されていない素人ですが、そんな私でも経営者を最初に悩ませるのは資金調達かなと理解します。これがなければ始めることができません。

不況はやはり事業立ち上げに対してネガティブな影響を与えると思います。社会全体に様々な制約を課すことになりますが、しかし私が関わろうとしている分野に限定すると、以下の2つの課題に集約されるとも考えていました。これらのリスクがコントロールできるのであれば、不況にそこまで怯えすぎる必要はないかなと。

課題1: 起業初期の仲間・チームを集めるための軍資金獲得

→ Webの事業は人件費がほぼ全てです。エンジニアに働いてもらうための軍資金が必要になります。

そのための資金を得る方法として、不況で慎重モードになったVCをいきなり頼るのは難しいというのは理解できます。岸田政権が打ち出した「スタートアップ育成5か年計画」が続けば、将来は明るいとも感じますが、私個人としては「今すぐではないかな」と考えています。短期的な作戦としては「日本政策金融公庫・国民生活事業」の融資なら、無担保・無保証人なのでリスクも小さく資金を得られるので、まずはそれでやり過ごすというのも手です。

スタートアップは受託なんてしないと思っていたのですが、意外なことに自身の専門性に絞って受託案件を受けている方も結構いるようでして。自社サービスの未来の取引先となる方から部分的に軍資金を頂くという発想もあるみたいです。Web業界なんかは成熟化が進んでいるわけでして、プロダクトアウトからマーケットイン寄りに求められる戦略が変わりつつあり、だとするならこの方法はむしろ安心感があるようにもみえます。(うちもこの戦略が最適かなとは思ってます)

課題2: 起業初期のリスクを下げるための固定費削減

→ 事業が安定しない時期は、とにかく固定費が邪魔になります。全ての仕事が消滅すると固定費が全て負債に変わります。

エンジニアはフリーランスとして働くことが一般化しており、そのためのエージェントも数多く登場しています。国が副業を推進しており、それが専門家であれば経済産業省から「副業・兼業支援補助金」が提供されます。一番重たい従業員の人件費という固定費をゼロにすることが可能なので、景気や会社運営が安定しリスクが許容できるまでは業務委託中心で固めるという戦略も現実的です。

コロナの影響でリモートワークが普及し、高いオフィスを持たずに起業するのが普通になりました。登記の住所はVCから借りたというお話も聞きます。銀行の信用を得るためにはオフィスがあった方がいいのでしょうが、起業初期においては固定費を抱えるリスクと天秤にかけ、フルリモートでいくという選択をとれるように思えます。オフィスフロア代という固定費もほぼゼロにすることが可能です。

ということで、残された固定費リスクは実質的に私の役員報酬のみということになります。本当に驚くべき時代になったと感じました。

諸々の課題がクリアされ「これなら不況を恐れることなくいつでも始められるな…」と思いタイミングを伺っていたところ、ありがたいことに知人から取引先を紹介していただけました。周りの人間に助けてもらえて、なんとかスタート地点に立つことができました。知人に恵まれたことが、一番大きいと思ってます。

昨年、スタートアップ経営者の知人から、「事業をやるための1億円を得るために、会社の中でやるのか、社外で独立してやるのか、合理的に選択できる時代になった」と言われました。新しいことをやりたい若者は、「大企業の承認プロセス・社内政治」と「VCの厳しい審査」を天秤にかけ、合理的な選択をすることになると。リスクを背負って勢いだけで起業する時代ではないとのことです。

素人経営者なのであまり深いところまでは理解できませんが、お金を取り巻く状況の変化だけみていると、そういう意見もあるのかなとは思いました。

理由3. 世の中に不満があるから。

私は7年ぐらい前から「クリエイティブな活動が、もっと輝ける世界をつくる」というスローガンを掲げて活動してきました。そういう世界の実現のために進む道を選んできたつもりです。

そして今、当時の私が想像していたよりも、世界はあまり良くなっていません。良い世界を創り出すためには、事業を通じて問題解決を行っていかなければならないと、そういった思いが生まれました。

私はサラリーマンという働き方が好きでしたので、今後もその立場でこの問題に取り組んでみたいと考えていました。しかし、機運の高まりには逆らえなさそうです。

ここまで、タイミングがいいとかリスクが低いとか、いろんなそれっぽい理由を並べてはみましたが、いずれにせよこの問題に取り組むために行動には出ていたのだろうなとは想像します。これから様々な事件が発生し、合理性だけでは計り知れない苦労がいっぱいあるのだろうと予想します。とはいえ、そのことに怯え、この問題を遠ざけて見守っては、最後に必ず後悔していたはずです。

不況だからこそ普段以上に慎重になるということも大事ではありますが。それと同じぐらいには、私の心に湧き上がる感情を大切にし、社会問題の解決に向けてチャレンジしてみたいと思います。

このブログの筆者について

川田 寛

コンテンツサービスの開発や運営代行を専門とする集団「株式会社ブートストラップ」の社長です。ネットではふろしきと呼ばれています。

2009年にNTTグループへ新卒入社し、ITエンジニアとしてクラウド技術・Web技術の研究開発と技術コンサルティングに従事。2015年よりピクシブに入社し、エンジニアリングマネージャー・事業責任者・執行役員CCOなど、様々な立場からコンテンツサービスの事業づくりに関わりました。2021年にメディアドゥへVPoEとしてジョインし出版関係の事業に関わったのち、2023年に独立しています。

関わってきたインターネット事業としては、ECサービスのBOOTH、UGCプラットフォームのpixiv(主に海外展開)、制作ツールのpixiv Sketch、VR・VTuber関連ではVRoid、Wikiサービスのピクシブ百科事典など、10を超える多様なCtoCコンテンツサービス。また、NTTドコモのすご得コンテンツ、メディアドゥのWeb3サービスであるFanTopなど、いくつかのBtoCコンテンツサービスにも関わってきました。

幸運なことに、私はコンテンツに関係する幅広いインターネットサービスのテクノロジー&ビジネスの知識を得ることができました。これを日本のコンテンツ発展に役立てたいと思い、株式会社ブートストラップを創業しました。

このブログでは現在、出版社やIPホルダー、ライセンサーといったコンテンツに関わる人々に向けて、インターネット事業に関するTipsや業界内のトレンドなどの情報を発信しています。私と話をしてみたいという方は、以下のフォームより気軽にご連絡ください。

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