ふろしき Blog

コンテンツサービスを科学する株式会社ブートストラップ代表のブログ

NTTからピクシブ株式会社に転職しました - 大企業からベンチャーへ移ったエンジニアの話

ピクシブ株式会社に入社しました!…といっても、入社したのは2015年8月1日と約1年前です。

転職エントリーは、転職した直後に書くよりも1年後の方がいいのでは?転職の興奮が覚め、会社のこともある程度わかってから書いたほうが、身になる話ができるんじゃないか?

なんてことを入社直前に思いつき、あえて今頃になって、転職エントリーを書いています。

このエントリーでは、大企業からベンチャーへ、エンタープライズ系からネット系へ、受託メインの会社から事業メインの会社へ転職した私が、1年経った今感じていることをお話しします。それで、後ろに続こうとしている人に、何かしらのヒントを残せたなら、私としても嬉しいです。

最初に言っておきますが、「こんな会社辞めてやる!」的な、そういうコンテンツはないので、期待しないでください!!!

転職で変わったこと

私の転職は、テクノロジーというキーワードを除くと、なにもかもが違う環境への移動です。もう本当に、何もかもが全く違う。

★ 前職 : 大企業 + SIer

私の元いた会社は、NTT系のSIer。国営時代のNTT「電電公社」の時代からの歴史的影響は強く、まさに60年以上の歴史の中を歩いている感じです。社員は8,000人ぐらい。同期は240人。平均年齢はたしか40代の後半で、私は完全に若造扱い。役職は、年功序列が大きく関わります。社員間のコミュニケーションの主な手段は、メールと電話でした。

NTTグループ内からの請負がメインの会社で、企業としての成長モデルは、どれだけの受注をとるか。とはいえ、会社としての方針としては、NTT全体の業績をITという側面から支えていこうという感じで、利益にならないことも踏ん張ってやっています。

★ 現職 : ベンチャー + ネット系事業会社

ピクシブ株式会社は、10年いくかいかないかのネット系、エンタメ系の企業。入社時の社員は100人を切っていて、前職の同期の半分にも満たない人数で現場を回しています。平均年齢は29歳で、私はオッサンの位置づけ。役職は、能力や実績、向き不向きで決定。社内コミュニケーションはSlack、esaです。

企業としての成長のメインは、ネットのサービス提供。広告費やプレミアム機能などなど、ネット固有のビジネスモデルによって成長が支えられています。会社としての方針は、創作活動をもっと楽しくすること、そのために必要なことをやっていく。創作活動をする人を幸せにするなら、多少は利益にならないことも踏ん張ってやっています。

最初にオフィスへ入った時は「ここは子供の集まりか!!」という衝撃を受けました。自分の父親ぐらいの年齢たちがわんさかいたような職場から来たものだから、社長を含めてもう全員が子供にしかみえない。たまに30〜50代の人たちに飲みに連れて行ってもらうと、前職のことを思い出して懐かしい気持ちになれます(笑)

★ 明日クビになる、そう言われた時の反応が違う

とにかく、NTTにいた時は、会社としての安定感がすごく、自分から言い出さない限り、クビになる感じがまったくありませんでした!社員全員も、そういう前提で人生設計をしていて、将来の話がとても緻密だった。そういうことを求めている人には、最適な場所であることは間違いなかったです。

今の会社なんて、ネット系なんていう10年後も残っているかすらわからないフラフラした世界。将来の緻密な計画とか、人生設計とか、そういう話をしたことなんて、この1年、一度もありませんでした。

「この会社は3年持たない」

なんてことを前職で言おうものなら、社員全員がものすごく暗い雰囲気になったはず。相当重く受け止め、テンションだだ下がりです。

ただ、現職で同じことを言おうものなら、社員一同、大笑いした上で、「ですよねー!でも、そうならないように、我々結構、必死なんですよ?」とか「エンジニア退職したら農家やる予定だったし、その時はその時で、まぁいいんじゃないw」とか、冗談交じりに突っ込むのがピクシブ。少なくともエンジニアは、フリーランスで食う道もあるけど、ピクシブで実現したいことがあるから所属しているというムードが漂っています。

私はこの会社、やはり、ベンチャーなんだと思っています。ピクシブに限らず、ベンチャーなんかはみんな、そういうノリになると思うのです。自分たちがやっているプロダクトとどう関わって、どう育てていくかが、それが自分の未来に繋がっていると感じざるえない。そういうこともあり、少なくともピクシブの場合は、上下関係なく、みんなけっこう遠慮せずズバズバ言う雰囲気があります。

★ 働き方はどう変わった?

あらゆることが全く違う会社の入ったのですが、実際のところ一番最初に恐怖したのは、とてもよくある悩み。「大企業にいると、他の企業では通用しなくなるんじゃないか」という問題でした。むしろそれぐらいしか、悩みがない。

私の周りにいる中途採用の社員もみんな、その不安を口にしていました。元リクルートの人も、元電通の人でさえも、みんな「不安だ」と。ただ、実際働き始めるとそういう点はあまり気にならず、みんな普通に成果をだしています。

大企業の経験の"全て"が通用するのかというと、当然ですが通用しません。役に立たない事もいっぱいあるよう感じています。そこについては間違いないようです。少なくとも、「普段やっている作業」みたいなところは、もはや、全く違う。

ただ、それこそ「あのビジネスはどんな仕組みで回っているのか?」というのを推測するような"思考力"が求められるようなものとか、「基本的なタスクの優先付けをどう決めるのか」などの"仕事の基本行動"みたいなところは、何も変わらず、自己啓発本がちゃんと売れている理由がわかった気がしました。

★ 実行力に求められる能力は違う

実行力」に関するところ。何かを変えたり作り上げる力が求められること。これはホワイトカラーをやっている限り仕事の核になりますが、そこのやりかたは結構違うと思っています。

大企業だと物凄い"コミュニケーションコスト"が必要とされますが、小さい企業だと"機敏さ"がモノをいう。大企業がコミュニケーション力重視で新卒を探すのが、本当によくわかります!そういう人はほんと、大企業のほうが成功できる!

小さい企業の方が身動きとりやすい!という話はよく聞いていましたが、実際にそれを目の前にすると、それはそれで決して楽ではなく、別のスキルが要求されているなぁと感じています。人間、意外とそんな簡単に、思いついた素晴らしいアイデアを即実行には移せないものです。

大企業の時は1年で動かしていたものが、今の会社では四半期で動かしている状態。1年単位で何かを起こすが当たり前だった世界の人が、3ヶ月かそれ以下の期間で何かを変えることが求められている世界に。ここがもう、一番慣れない所でした。

慣れ始めた今は、このスピード感が最高に楽しい!たった四半期を振り返っただけで、そこその達成感が得られるというのは、私も今までに経験したことがなかったので、とても興奮しています。

何がきっかけで転職したのか?あるいは、転職すべきなのか?

転職のきっかけは、結構大切なポイントだと思っています。ここについてもお話したいです。

★ 「こんな会社やめてやる!」って思って転職するのか?

私の場合は、別に前職が嫌いになったというわけではありません。むしろ、大好きだし、マニアだったと言ってもいいです。同期の中では、NTTの詳しさは相当高いほうだった。日本のインフラに関われるというのは、学生時代からの憧れだったし、そこに誇りを感じていました。転職を決意した時は、あのインフラに関われないなんて、これから先もうチャンスが無いなんて!!と、もう本当に辛かった。

…とはいえ、「こんな会社やめてやる!」類のことも、相当考えました。そのわりに、前職は6年4ヶ月と、第二新卒のタイミングをぶっちぎり、転職が難しくなるような時期まで居座っていました。

というのは、前職は特にブラック企業という感じでもないし、自分の行動を著しく制限するような会社でもなかった。「やめてやる!」と思った理由の多くは、自分の実行力不足によるところが大きかったのです。「それを理由にやめるのは何か違うんじゃないかなー」なんて思い踏みとどまった人です。何かアクションを起こして、それが会社の向かう所、期待する所、バリューにならないならやめればいい、と思ったわけです。

前職の先輩社員に言われた「会社辞めるつもりなんだったら、周りのこととか小さい事いちいち気にせず暴れまわればいいんじゃね?」の一言。あれは本当に良かった!憤って、ガンガンとアクションを起こしたからこそ、そこに成長があって、今の会社への転職に繋がったと思っています。

周りの人間も、お固い会社では考えられないようなたくさん自由を私に与えてくれました。普通だったら、そこらの野良のIT勉強会で「NTT〇〇です」なんて所属を語ることすら難しい。それが当たり前のように実現されていたわけです。私が起こしたアクションにそう応えてくれたのは会社だったし、私がアクションを起こすまで、そんなことができる会社だなんて思いもしなかった。

あのまま辞めていたら、こうはうまく転職できなかったんだろうなぁとしみじみ感じています。

★ 転職のきっかけは、仕事をする上で「大切にしたいこと」がみつかったこと

私の場合、転職するきっかけになったのは年齢でした。

30才を目前にして、20代に自分がやってきたことを振り返りながら私は考えました。30代以降は、自分の持っている知識やスキルの中で「世の中に一番バリュー発揮できること」に力を入れよう。「好きよりも向いている」を優先しようと。

前職は"好き"ではあったけど、"向いている"とは感じていませんでした。クリエーターの生態に強い関心を抱く自分の習性だとか、エンジニアとしてのスキルがどちらかといえばネット系に向いていたとか、そういうのを考えた結果、最終的にピクシブ株式会社に行き着きました。ピクシブもそんな私のことを、受け入れてくれました。

私に限らず、誰しも何かしらのきっかけがあり、今後どのように働いていこうかと考えることはあるはずです。その答えが私のような決め方になるとは思っていません。結局、仕事に対して、何が「大切にしたいこと」なのか次第。それは、人それぞれだと感じています。

私には、入社直前までピクシブに入ることを反対していた知人がいました。ただ、彼らが仕事に対して「大切にしたいこと」は、私のそれとは違っていました。全員に納得される会社の選び方なんてどこにもない。「労働時間」「給料」「働き方」「業界」「裁量」、色々と条件はありますが、そこに大なり小なり人はこだわりがあると思っています。そしてそれ自体も、その人が置かれている状況によって変化していくはずです。

特に、初めての転職。しかもそれなりに入るのが難しい会社であったり、安定している会社であったり、居心地がとてもいい会社だったりすると、出るのにとても勇気がいります。そうとう辛い思いをしなくてはいけない会社であっても、出るのが難しいと感じるぐらいですから。

その時、仕事で「大切にしたいこと」がはっきりしていない場合、なかなか一歩目が踏みだせないように思えます。その「大切にしたいこと」が、今の会社にあって、続けていくべきなんだ!という考えを持つことも、私は素晴らしい判断だと思っています。

どのように転職活動をしたのか?どんな方法で転職したのか?

転職エージェントは世の中にゴマンとあふれていて、最初私はそういった人に会ってみたりもしました。東京駅のいい感じのカフェに行ってお話したりだとか、そういうのは結構やった人です。ただ・・・

A社の担当「以前、あなたは英語が話せる職場に行きたいと言っていたので、この会社を紹介したいです!」
私「あの、そんなこと一言も言ってません・・・」

B社の担当「いま流行のJSフレームワークが使える職場を紹介します!!この職場、あなたにとってはとても魅力的ですよね?」
私「いま流行のJSフレームワーク?それをモチベーションに、1年後も働けるんでしょうか・・・」

と、こんなことが結構あり、ただでさえ転職は時間が奪われるのに、こんなことに時間を使うのはキツイ…なんて思いやめてしまいました。なので、あまりいい印象がありません(笑)

ただ、世の中で大活躍しているエンジニアの中には「あの担当者と出会えていまの人生がある!」とか「いまでも年に1回ぐらいは会う!」なんて人もいます。私が出会えていないだけなのかもしれません。そもそも、私に転職のやりかたを教えてくれたのは転職エージェントなので、決して無駄ではなかったです。一度ぐらいは行ってみるのもありだと思っています。

★ どんな方法でもいいから、情報を得ることが重要だと思う

私のケースでは、知り合いのツテであったり、知り合いから聞いた情報がメインでした。エントリーは主に、企業の採用ページです。私はネット系の会社の知り合いはそれなりにいる方なので、Facebookを開くだけである程度は話がきけます。転職エージェントに進められた会社のエンジニアと、次の日に勉強会の懇親会で、一緒に飲んで話を聞いた!なんてことは珍しくありませんでした。エージェントの担当者よりも、その会社の中の事情に詳しかった、なんてこともありました。

結局、重要なのは「情報」なんだと思っています。

エイヤ!で働く場所を決めることもいいことですが、私の周りで転職に成功している人は、事前に会社の事情を得られていることが多いという感じがします。私自身もそうです。

エンジニアだったら、勉強会に行ってみるのもいいかもしれません。気軽に他社の社員と会えて、酒を呑んで話が聞けるとか、他の業種からみたら異常にみえます。もちろん、話をするだけの勇気が必要なのですが、「会社に興味がある」と言ってあなたと話しない人の方が珍しいです!

こんな社会人歴の人が雇われた理由を冷静に考える

転職をある程度やってきた人は、職場に慣れることが早いのかもしれません。しかし、私はこれが初めての転職なので、もうずっといっぱいいっぱいでした。この1年、目の前のサービスを伸ばすことだけに必死でした。

ただ、1年が経ち、最近はようやく心に余裕がでてきました。

私の力を活かせる場所を広げてくれている人もいるので、やれることが増えています。私にそういう、役割を与えてくれる、チャンスをくれるなんて、本当に幸福なことです。

その上で、私は新卒や第二新卒とかでなく、30代とかの中堅どころの時期に採用された人間として、そろそろ考えるべきことがあると思ってます。

★ そろそろ、組織への貢献を

私の目標は最高のサービスを作ること。どうしても素晴らしいサービスが作りたい!!ただ、そのために必要なものは、最高の人間であったり、そういう人が活躍できる場所だと思っています。

なので、そろそろピクシブが組織として抱えている問題にも、踏み込んでいかないなぁなんて思い始めています。

転職活動をしていた時、私にとってピクシブは、どんな人が働いているのか、どういう働き方をしているのかが、他の会社に比べて全然みえなくて、不安しかなかったです。かなり閉鎖的にみえました。ただそういうのも、もう少し上手く変えていって、みんなにちゃんと見てもらいたい。その上でうちに魅力を感じて入ってくる。そうすることで、私の後ろにつづいてくる人が不安を持たずに入ってこれると思うのです。

そろそろ、そういうアクションを起こすべきタイミングが来たと思っています。

★ 技術からもう一歩踏み込んだビジネスを生み出したい

35歳定年説が目前に迫ってきてはいますが、そこはあんまり気にしていません。ただ、30代になったからこそ、20代の頃のように、新しい機能や技術の出現に一喜一憂してるでなく、業界の中で何か変化を起こすような使い方を作り出していく。そういうことを、やっていかなくてはいけないと思っています。

私自身の問題としては、やはり元がSIerだったこと。SIer的なものの見方になってしまっていること。技術と企業の要求の中に住んでいた自分は、ちょっとばかり頭が、汎用的モノ作りとコストの世界に寄りすぎていると感じています。

…いや、今のエンタープライズは決してそういうものではありません。いまはコストを下げることのためのITではなく、ビジネスを成長させるためのITへと変わってきたので、そういう考えはもう古いとは思っています。ただ、どうしても私は、前時代的な頭の働かせ方をしてします。コスパ!コスパ!と、良くないクセが仕事の中にもでてきてしまっていると思っています。

今いる会社は事業会社なので、テスト駆動開発とか、顧客の要求駆動の開発でもなく、"事業駆動"な開発。事業を成長させるため、その上で最適な実装方法、技術選択、そこにリスクや価値を見極める世界。技術との付き合い方は、違うベクトルを向いています。それだけでなく、技術面から、革新的、もしくは破壊的な何かを起こす想像力が求められます。

コスパはもちろん大切だし、組織にスケールできるのかという点も大事。ただ、それってユーザーに向けて何かを作っているサービスでは、そこまで重要ではない。爆発を起こすことが求められいる中で、そういう考えは無駄になることが多いんです。だからこそネット系の企業では、社内フレームワークみたいなものが無くても十分にやっていける技術力の人間が集まっている。コストを下げることとは反する働き方をする人間が集められている。

私はまだそういうセンスが弱い。振り切れていない。コスパは最悪なんだけど、爆発を起こせる何かというやつに、突っ込もうとする姿勢があまりにもなさすぎる。これからはちゃんと、技術から新しいビジネスを生み出す試行錯誤をしていこうと思う。

最後に、転職するにあたり、私にさまざまな助言をしてくれたみなさま、ありがとうございます。みなさんがいたからこそ、私は今の新しい人生があったと思っています。前職のみなさんも、私を暖かく見送ってくれて、本当に嬉しかったです!!

私が過ごしたあの6年4ヶ月は、私にとって、まったく無駄なものではありませんでした。

このブログの筆者について

川田 寛

コンテンツサービスの開発や運営代行を専門とする集団「株式会社ブートストラップ」の社長です。ネットではふろしきと呼ばれています。

2009年にNTTグループへ新卒入社し、ITエンジニアとしてクラウド技術・Web技術の研究開発と技術コンサルティングに従事。2015年よりピクシブに入社し、エンジニアリングマネージャー・事業責任者・執行役員CCOなど、様々な立場からコンテンツサービスの事業づくりに関わりました。2021年にメディアドゥへVPoEとしてジョインし出版関係の事業に関わったのち、2023年に独立しています。

関わってきたインターネット事業としては、ECサービスのBOOTH、UGCプラットフォームのpixiv(主に海外展開)、制作ツールのpixiv Sketch、VR・VTuber関連ではVRoid、Wikiサービスのピクシブ百科事典など、10を超える多様なCtoCコンテンツサービス。また、NTTドコモのすご得コンテンツ、メディアドゥのWeb3サービスであるFanTopなど、いくつかのBtoCコンテンツサービスにも関わってきました。

幸運なことに、私はコンテンツに関係する幅広いインターネットサービスのテクノロジー&ビジネスの知識を得ることができました。これを日本のコンテンツ発展に役立てたいと思い、株式会社ブートストラップを創業しました。

このブログでは現在、出版社やIPホルダー、ライセンサーといったコンテンツに関わる人々に向けて、インターネット事業に関するTipsや業界内のトレンドなどの情報を発信しています。私と話をしてみたいという方は、以下のフォームより気軽にご連絡ください。

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