ふろしき Blog

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企業にモバイルを適用する方法「MEAP」の全貌を掴む(4) - IBM Worklight編

企業にモバイルを適用するにはどうすればよいのか?そのための答えの一つに、MEAPが力を持ち始めています。

もちろん、MEAPが解決方法の全てというわけではありません。MEAPはベンダ色が強く出るため、毛嫌いする人も少なくないようです。マイクロソフトやアップルのようなプラットフォームを持つベンダも、そのメリットを活かした戦略をいくつか打ち出してはいるものの、やはり、ベンダに強く依存してしまうことに変わりないようです。このあたり、W3Cでも全く動きが無いというわけでもなく、技術革新の途中であるため、オープンな仕様が作りにくいというのが実情にも思えます。

MEAPと呼ばれている製品の本質的な価値はなんなのか?一体企業のどこを変えるのか?そのことを追い求めて、Sencha Space→SAP Mobile Platformとベンダを横並びにして評価してきました。しかしそれも今回で最終回です。今回味見するのは「IBM Worklight」です。

前回の紹介したMobile Platformは、買収を繰り返し色んな製品をくっつけてきたという歴史的経緯からか、モバイルの抱える課題に対する分類学的なものが比較的進んでいました。Mobile Platformというのは製品の集合体に対して与えられた呼び名みたいなもので、いわば「Microsoft Office」みたいなイメージです。UIを作るならSAP UI5を使えだとか、プラットフォームにSAP AppBuilderを使えとか、色んな製品が目的ごとに別れており、しかもこれらの独立性はやや高めだったりもします。(→Wireless Platform2の時代はそうだったので、今もそうなっているだろうという想像ですが。)

ところが、IBM Worklightは、一言で言えば「モノリシック」という印象です。IBMは2012年2月、Worklightと呼ばれるモバイルソリューションのベンダを買収し、その延長線上に今があります。複数の製品を繋げていないからか、Worklightはそれだけで一つの製品として収まっている感じになっています。SAP Mobile Platformに感じるような「製品群」という印象がありません。

f:id:furoshiki0223:20150204171259j:plain(参考:日本アイ・ビー・エム佐々木志門「IBM Worklight@html5j Enterprise Night Seminar」)

IBMは、機能を網羅的に埋め、企業向けクライアント全般の統合を進めようという方針なのか?

IBMのモバイルに関しては「網羅的に攻めている」という感触を得ています。あくまでこれは筆者の愚考としてですが、IBM Worklightは特徴の無いというのが特徴、ある意味「王道感」のようなものを感じています。世の中にはMEAP製品は星の数ほど溢れていて、実装している機能もマチマチです。A製品にはあるのにB製品には無い、またその逆もしかり。そんな状況の中、IBM Worklightは一通り一般的な機能を取り揃えている感じがします。

またIBMは、MEAPに限らず、エンタープライズモバイル市場全体で見ても、その動きには「網羅性」に対する意識が読み取れます。この2014年の夏は、各製品ベンダがエンタープライズモバイルで覇権を握ろうと特に大きな動きをみせているのですが、IBMはその動きが特に派手です。例えば・・・

日本アイ・ビー・エムは6月末に、「MaaS360」と呼ばれるエンタープライズモバイルの管理基盤の提供を開始しました。他社だとSencha Spaceも管理基盤を、クラウドサービスとしてこの秋に出そうという動きがあるようですが、IBMがまさに先手を打ったという次第です。私が思うに、今後このMaaSの機能は、コモディティ化が進み一般的になるのではないかと睨んでいます。当然ですが、日本企業が欲しがるようなオンプレミス版も提供されています。

また、IBMは7月に入り、今度はIBMとAppleでのエンタープライズモバイル分野での提携をアナウンスしました。実はここ最近Appleも、Swiftで世の中を騒がせている裏で、密かにビジネス向けアプリへの進出を始めていました。知らない人が多いというのが実情で、実際に彼らもそこまで大声でPRしてはいなかったように思えます。そんな彼らが、エンタープライズモバイルに全力で、しかも網羅的に攻めよう、どんな切り口でも行ってやろうという感じのIBMと組むのは、世の中が感じているほど不思議なものには思えません。AppleはIBMの持つエンタープライズ製品を活用し、新たな分野の開拓を狙っているようです。

そしてトドメに。彼らはMEAP製品のことを何と呼んでいるか?「エンタープライズ・アプリケーション・プラットフォーム」です。モバイルというキーワードはありません。彼らはモバイルとデスクトップの壁すらも取り払い、企業システムはモバイルファーストな、デバイスの壁の無い世界に進むものと捉えているようなのです。

「企業にモバイルが入るなんてありえない」なんてことが日本の企業の殆どの現場の意見なのかもしれません。しかし、Windows8然り、多くの製品がモバイル前提の作りに変わりつつあります。ブラウザもまた、今ではモバイルにとっての最適となることに注力しています。デスクトップに対する関心は、殆どと言ってよいほど失われています。そうなると、HTML5を含めWeb標準の担うべき役割は、今までネイティブが主役だった領域すらも巻き込み、今まで以上に重たいものになるのではないでしょうか。

f:id:furoshiki0223:20150204171300j:plain(参考:日本アイ・ビー・エム佐々木志門「IBM Worklight@html5j Enterprise Night Seminar」)

開発時は柔軟に、幅広いプラットフォームを扱える方針

もう少し、Worklightについて気になったポイントを語ってみます。MEAPとしての機能は、実際のところSAPなどが出しているのとほぼ横並びで、切り口だけが異なるといった状況です。ただ、彼らはやはりモバイルという前提自体を取り払おうとしているからなのか、WindowsのストアアプリやWebアプリを含めるなど、他のMEAPと比較して、動作対象のプラットフォームは比較的幅広く持たせてあるという印象です。

MEAP製品の多くは、HTML5を活用したハイブリッドアプリが前提のものが多かったりします。しかし、IBM WorklightやSAP Mobile Platformは、ネイティブアプリの開発もできます。ハイブリッドはどうしてもパフォーマンスに課題を抱えがちなので、こうした問題に対する逃げ道を作っているわけです。もちろん、ハイブリッドアプリだからこそできるような、ワンソースでAndroidからiOS、Windows Phoneまで、一通りのネイティブアプリが作れてしまうという大きなメリットは失われてしまいます。企業向けシステムを、わざわざネイティブで作る必要性は年々失われつつあるように思えますが。

f:id:furoshiki0223:20150204171303j:plain(参考:日本アイ・ビー・エム佐々木志門「iOS/Android/Windowsストア・アプリのハイブリッド開発における限界と可能性 」)

あと、とても地味な情報ですが

始めるだけなら、もの凄く楽です。が

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EclipseのMarketplaceで「Worklight」と検索すれば出てくるし、プロジェクトもこんなんでいいのか?というほどにさくっとできてしまいます。Eclipseってもっと、面倒なことがいっぱいあるという印象しかなかったので、私的は結構目からうろこでした。

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ビルドするだけなら特に説明を読まなくてもサクサクっといけるという印象です。気持ち悪いぐらいに、手軽な感じがします。UXの求められる時代に、説明書なんてついてくる製品がまだ存在するのか?というツッコミはさておき。Eclipseはセットアップに時間がかかるという問題があり、最近はVisual StudioやIntelliJにシェアが奪われつつあるようですが、流石は開発元のIBMだけあって、このあたりは頑張っているという印象です。

ただ、MEAP、・・・というよりHTML5によるハイブリッドアプリ開発全般の問題点なんですが、デバッグが困難という問題はまだまだ改善を待たなくてはけないようですね。今後多くの業務系開発者が関わる可能性が高い分野なので、技術進化が待ち遠しいところです。

最後に

5ヶ月にも渡り続いたMEAP特集も、これで終わりです。実は、この記事の連載中にも日本国内の色んなところでMEAP製品が出てきています。私の感覚では、30製品ぐらいゴロゴロと転がっているという印象です。というか、私の所属している会社もMEAPっぽい何かを売っていたりするので、大手ベンダだとどこでも何かしら持っているような印象があります。世はまさに、モバイル戦国時代といったところでしょう。

モバイルで企業向けシステムはこれからどう進化していくのか、そのことを探っていくため、翔泳社のDevelopers Summit 2014 Summerにて、パネルディスカッションを開くことにしました。Oracle、Microsoft、SAP、IBMと、モバイル製品にガンガン投資し、これからの企業向けシステムの進化を促そうとしている製品ベンダを揃えています。面白いトークができるのではないかと思っていまして、今から私もワクワクしています。ご参加下さい。

企業にモバイルを適用する方法「MEAP」の全貌を掴む(3) - SAP Mobile Platform編

企業にモバイルを導入するにはどうすればよいか?・・・その答えとして、2012年ごろから注目を集めているのが、「MEAP(Mobile Enterprise Application Platform)」と呼ばれるモバイルファーストな製品群です。

本連載は、IBMやSAP、Senchaなど、複数の企業が提供しているMEAP製品を少しずつ味見して、MEAPとは一体何なのか、企業のシステムの何を変えようとしているのか、その全体像を掴んでみようという企画として始めてみました。第3回の今回、そろそろ本質みたいなのが見えてきてもいい頃でしょう。

さて、今回探りを入れるのは、製品ベンダ「SAP」です。彼らが、MEAPに対してどのようなアプローチを試みているのか、探ってみましょう。前回紹介したSenchaはいわゆる、フロントエンドのリッチ化、HTML5によるSPA(Single-page Application)のテクノロジーで高い価値を提供している製品ベンダでした。彼らは言うまでもなく、フロントエンドに閉じた表現力、ポテンシャルの向上で勝負に出ていました。

しかしSAPは、いわゆるビジネスパッケージの製品ベンダ、彼らのビジネスはサーバ側での価値提供にあります。全く真逆を行くわけで、同じMEAPという枠の中でどういう面白さを追求しているのかが気になるところです。

SAPのMEAP製品が実現したいこと、彼らが企業向けシステムで実現したいことは何か?

少し歴史を振り返ってみましょう。SAPは2010年5月にSybaseを買収し、その2年後の2012年6月にはSycloを買収し、企業向けモバイルのノウハウを得ています。2010年の買収は、他の大手ベンダに比べると比較的早い段階です。ガンガンと買収を繰り返し製品を繋ぎ合わせ、「Mobile Platform」と呼ばれるMEAP製品をリリースするに至っています。そして2013年の秋に、彼らはMobile Platformのバージョン3.0をアナウンスしました。

しかし、その中身を覗くと、これまで出していたものとはまるで別物かのように姿を変えていました。エンタープライズモバイルは、今まさに技術革新の真っ最中ということもあり、かなり混沌としています。当然、SAPのMobile Platformも例外でなくまさに進化の真っ最中で、マニュアルの日本語化もなかなか追い付いていないことから、中の人的にもフルパワーで走っているのだろうということが想像できます。

繰り返しますが、IBMにせよOracleにせよ、企業向けモバイルソリューションは、大雑把に似たような機能を持っています。良い機能はみんな互いにマネしあって、コモディティ化が進んでるわけです。MDM(モバイルデバイス管理)やHTML5(ハイブリッド開発)、アクセス管理などが代表的でしょう。ただ、同じような機能なのにも関わらず、どの製品ベンダもMEAPという表現をあまり好んで使いません。そこには、製品の良さ・差別化されている点を強調したいという狙いがあるようです。

Oracleは「モバイル開発フレームワーク」なんて呼び方をします。対して、IBMは「エンタープライズ・アプリケーション・プラットフォーム」という表現を使っていたりします。MEAPをこれからどのように発展させて行きたいのかが、なんとなく理解できる呼び名になっていますね。

では、SAPはMEAPを何と呼んでいるでしょうか?彼らはMEAPを、「BYODソリューション」と呼んでいます。BYOD、すなわち、私用端末の企業内利用という面でのメリットを強く強調しているのです。欧米だとBYODはそれなりに浸透しており、私用で使っているようなモバイル上でも、社内システムにアクセスするだけのセキュリティ保護機能を必要としていたりします。SAPの製品は、こうしたニーズを狙ったものと言えるでしょう。

しかし、日本の場合、セキュリティ的に厳しく、BYODをそのまま実現できないことも多いようです。個人のモバイルを活用するというよりも、企業側が個人にモバイルデバイスの貸出を行うという流れに進んだようです。となると、BYODという言葉は、「プライベートな場に持ち出すような端末でも、安全に使えるほどにセキュリティを堅牢にできる」という意味合いで、使われるのが妥当に思えます。

f:id:furoshiki0223:20150204171758j:plain(SAPジャパン 井口 和弘「企業におけるHTML5を用いたスマートデバイス向けアプリ開発」より)

止まない、オープン技術の侵食

Webアプリのフロントエンド、HTML5やJavaScriptライブラリにはオープンソースの文化が根付き、ベンダロックインを激しく嫌う傾向にあります。JSライブラリあたりは特に、基本はOSSであることを望む傾向にあるようです。仮に有償の製品であっても、jQueryなどのOSSとの親和性が高いことを望む傾向にあります。

また、MEAPが目的とするところの「モバイル対応」についても、企業はあまりそこに予算をかけられないという課題があります。それこそ、新しくビジネスを作り、そのためのシステムを作ろうというのであれば予算がつくかもしれません。しかし、既に動いていて、ビジネス的に安定の時期に入っているようなシステムに追加予算を出すのは難しいというのが、多くの現場にとっての悩みなったようです。こうした背景から、営業力を高める上で「既存資産の流用」を望む声に答えるのが、重要な命題となりました。つまり、極力はHTML5に準拠したブラウザのような、オープンプラットフォームであることを追求するようになったのです。

SAPのMobile Platformはこのあたりの世の中のニーズを吸収してきた歴史が、はっきりと表れている製品だったりします。実はほんの少し前まで、UI周りをゴリゴリのベンダロックインさせ、プラットフォームも既存のWebシステムをそのまま流用させることを想定できていませんでした。しかしここ最近、特にMobile Platform 3.0からは「オープン化」を重要なテーマと捉え、様々な方向からオープンな技術との融合を狙っています。

例えば、Mobile Platformの一部をOSSとして公開したり、プロトコルにODATAを採用したり、既存のWebアプリをそのまま移植できるようにコンテナの汎用性を高めるなど、着々とオープン化を進めています。SAPと言えば、コテコテのベンダロックインな製品という印象が強かったりしますが、MEAPに関して言えば、出来る限りそうならないよう最善の努力を行なっているように見えます。

SAPからみると、オープン系の色が強い今のWebのフロントエンドはそれだけ異質に見えるのかもしれません。しかし、昨今のマイクロソフトもそうですが、OSSの普及で無償であることが前提のソフトウェア製品でどう儲けるかという、OSS前提のビジネスモデルの検討も進めていかなくてはいけません。そのことに、彼らは苦戦しているようにも見えます。

f:id:furoshiki0223:20150204171759j:plain(SAPジャパン 井口 和弘「企業におけるHTML5を用いたスマートデバイス向けアプリ開発」より)

統合化されたツール

急激に買収を重ね、強化を重ねたモバイル向け製品は、問題を抱えることになります。彼らは、Sybaseの持つ「Unwired Platform」「Mobiliser」、Sycloの「Agentry」へ、SAPの「NetWeaver Gateway」と、3つの異なる企業の製品を短期間のうちに統合することが求められたため、ツールにややツギハギ感が出てしまいました。しかしそれも、進化の中で改善されたようです。

SAPの製品は、UI開発のツールからプラットフォーム、バックエンドまでトータルな開発が支援できるという特徴を持っています。これはIBMのWorklightでもできることではあるのですが、筆者の所感として、全体的なバランス感覚、バックエンドとの接続周りには比較的強いという印象を持っています。インフラジスティックスのIgniteUIもそうですが、汎用的な製品とエンタープライズ製品の間で差別化を図る際、この手のデータ変換系を充実化させるベンダ製品が多いように思えます。フォームや表の出力を主とする企業向けシステム固有の特徴に、合わせて行った結果そうなったということでしょう。

f:id:furoshiki0223:20150204171800j:plain(SAPジャパン 井口 和弘「企業におけるHTML5を用いたスマートデバイス向けアプリ開発」より)

さて、SAPはこのくらいにしておき、最後にIBM Worklightについて取り上げてみましょう。

▼ 目次

  1. そもそもMEAPとは?
  2. Sencha Space
  3. SAP Mobile Platform
  4. IBM Worklight

▼関連
モバイルで企業システムをどう変えようとしているのか、ベンダ4社を集めその価値を問います。夏サミ2014、私はモデレーターとして参加します。

企業にモバイルを適用する方法「MEAP」の全貌を掴む(2) - Sencha Space編

Senchaはこれまで、SPA(Single-page Application : 単一ページアプリケーション)を実装するためのフレームワークやツールを提供し、プラグインに頼らないリッチアプリケーションの開発手段を提供してきました。モバイル向けには「Touch」、ノンプログラマー向けには「Architect」と、多数のフロントエンド開発の製品をリリースし、Web標準技術には高いノウハウを持っています。

その彼らが、2月7日のブログにて、「Space」の製品版リリースをアナウンスしました。この製品が、企業のスマートデバイス向けのアプリが抱える課題とリスクに対し、Senchaが出した答えのようです。本記事では、SenchaがリリースしたMEAP(Mobile Enterprise Application Platform)の製品、Space ver.1.0の中身を追ってみます。

★ Spaceのアーキテクチャ

Spaceは、前章で述べた、HTML5世代のモダンなMEAPアーキテクチャモデルをベースに採用しています。SpaceはモバイルデバイスのOSからアプリを隔離する環境であり、セキュリティやアクセス制御が行える箱の中でアプリを動作させることで、企業向けシステムに必要な要件をクリアさせます。

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開発したアプリは、モバイル上では専用のアプリ「Space」上から起動します。

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Spaceの特色

★ Space固有の特徴

Spaceの特色としては、Space内で動作させるアプリ同士で通信させるための独自機能「Invoke API」を提供していることでしょう。Invoke APIは、Space内の限定されたアプリ同士を、フォワグラウンド・バッググラウンドを通じ通信させることができます。

Senchaは、彼らのコアコンピタンスであるフロントエンドのリッチ化技術を活かし、サーバに依存しないデータ通信の仕組みを強みにしようとしているようですね。彼らはサーバ製品を持たないため、フロントエンド側で高いポテンシャルを得ることに、熱心なようです。

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★ アクセス制御と集中管理の考え方

Spaceは他の類似製品と同様に、Management Concoleを通じて、グループベース・ユーザベースによるアプリの有効・無効を制御することができます。これは非常に一般的な機能であるため、別の機会に解説を行います。
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★ セキュアなデータの記録

Space上のWebアプリケーションは、一般的なブラウザ上で扱うものよりも強固なセキュリティでデータを扱えるよう、専用のAPIを提供しています。ファイルの操作であれば「Secure File API」、KVS形式のデータ操作であれば「Secure Local Storage」を利用することになります。

★ 開発のワークフロー

開発は、Senchaの開発ツールであるSencha cmdを利用します。SenchaはExtJSなどのフレームワークをベースにアプリケーションを作りますが、Space固有の機能追加のため、フレームワークへSpaceのプラグインを追加して利用することになります。

開発プロセスとオープン性に適用の価値を求める

以前は単なるUIコンポーネントだったSenchaも、MVV*なフレームワークへ進化。独特のフレームワークゆえにそれなりの学習が求められるものの、開発のワークフローにしっかりと踏み込み、設計からテストフェーズまで一貫した思想に沿って開発させることで、エンタープライズでの活用に道を広げようとしています。他の製品には無い、彼らのアイデンティティでしょう。

また、Spaceに関して言えば、比較的オープンという特徴を持ちます。勿論、Spaceというプラットフォームにアプリを縛ってしまうという制約を持ちますが、MEAPの製品のいくつかは、サーバサイドの技術にまで影響を及ぼし、ベンダ製品に縛るものもあります。こうした中、Senchaという箱でしっかりとカプセル化し、サーバ側は比較的制約は緩くRESTライクな機能があれば動くのはメリットとして大きいように思えます。

Spaceは現在、10ユーザまでは無償で利用できる試用版を提供しています。日本語化はまだまだ甘いと噂されますが、Xenophyが解説ビデオにまで字幕を入れるなど、翻訳そのものの動きは活発のようです。

このビデオ、本記事のテーマである、企業システム向けに求められる隔離環境「MEAP」のメリットついて、非常に的確な解説を行っているためここで紹介しておきます。

Introducing Sencha Space - 日本語字幕付き from Xenophy Japan on Vimeo.

SenchaのSpaceについては、これで以上です。

次章はSAPについて取り上げます。SybaseやSycloといった企業を買収し、モバイル向けソリューションへの拡大に意欲を見せる彼らが、どのようなプラットフォームを提供しようとしているのか。その中身に、触れてみましょう。

企業にモバイルを適用する方法「MEAP」の全貌を掴む(1) - そもそもMEAPとは?

企業でのモバイル活用は関心の高いテーマです。昨年は、BYODという言葉が持て囃され、こちらもそれなりには関心が持たれました。

しかし、実態を見てみるとどうでしょう。InformationWeekが1月17日に公開した「5 Big Business Intelligence Trends For 2014」の主張からは、国外でもモバイルは企業内へ上手く浸透出来ていないという印象を受けます。万国共通して、モバイルの適用は一筋縄ではいかないようですね。

様々な異論が飛び交う「モバイル」と「BYOD」の2つのムーブメントですが、そのソリューションは高度化が進んでいます。企業向けシステムの構築方法、ITアーキテクチャの設計方法に変化を齎すような新しい流れが生じつつあり、企業向けモバイルアプリに一つの市場を作ったようです。

MEAP(Mobile Enterprise Application Platform)。言葉は2008年と歴史こそ古いですが、技術としての安定化が進み、またHTML5の登場で新たな進化の道が見つけられつつあります。このプラットフォームについて、これから4回の連載に渡り、その可能性を追ってみます。

モバイルではアプリを「隔離」させる

業務系のWebアプリについて、従来のデスクトップ型デバイスでは、セキュアな環境下でクライアントを動作させることを保証することで、セキュリティリスクを最適化させてきました。ブラウザの仕組みにせよ人的な脆弱性にせよ、「場所」に対して一定のセキュリティを確保することで対策してきました。

統合管理によるアクセス管理についても、Windowsが普及していたことから、Active Directroyの活用に改善が進められてきました。パフォーマンスも、前世代的なWebアプリは、主としてサーバサイドにフォーカスされていました。

ところが近年、モバイルの活用が求められ、企業システムは従来のデスクトップ型には無い独特の課題に悩まされ始めました。代表的なものとしては、以下が挙げられるでしょう。

パフォーマンス モバイルデバイスのハードウェアリソース不足。不安定な通信回線。
セキュリティ 持ち出し運び可能なハードウェア。平文では扱えない記録・通信データ。
マルチOS iOS、Android、Windows RTなどの複数のOSの混在。
アクセスコントロール グループベース・ユーザベースによる、アプリ・データへのアクセス権限付与の難しさ。

これらの問題に対して、BYODという切り口から解決方法が探られたようです。そして結果として、エンタープライズ向けのアプリは、モバイル上で扱う場合、「隔離された環境」の上で動作させてしまおうというアイデアが広がりを見せました。この仕組みは、どの製品もかなり類似した機能性を持つ傾向にあります。

共通点としては、以下のイメージです。

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モバイルに隔離環境専用のアプリをインストールし、その上で業務で使うようなアプリを動作させる仕組みになります。アプリは、ワンソースでクロスプラットフォームに動作させることを目的として「ハイブリットアプリ開発」を活用します。従来のブラウザでは不足していた企業向けシステムに必要な機能、例えばセキュリティ・アクセス管理なども、OSから隔離されたこの環境に実装されます。

どのように開発するのか?

HTMLやJS/CSSのコーディングを行い、コンパイル(パッケージングとも呼んだりもする)という手続きを踏み、エミュレート環境や実端末上にインストールされます。デバッグは、この上で行うことになります。

フロントエンドは文化として、開発にはIDEに限定されず、オーサリングツールやエディタ+タスクランナーなどの多様なツールにより開発されます。隔離を行う環境は、独自のプラットフォーム上でアプリを動かす必要があるため、利用ツールやライブラリに多少の縛りを受ける傾向にあるようです。

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どのように運用するのか?

企業向けの場合、IT管理者による業務アプリの管理・監視が必要とされるでしょう。これを実現するため、管理コンソール側から各隔離環境内のアプリの制御を行う機能を提供します。

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どんな製品があるのか?

さて、一通りの概念的な部分の説明が終わったところで、ここからは具体的なソリューションに目を向けます。探せば色々出てくるのでしょうが、今回は以下3つの製品を探ってみましょう。

次回は早速ですが、Sencha Spaceをテーマとし、中身について触れていきます。

▼ 目次

  1. そもそもMEAPとは?
  2. Sencha Space
  3. SAP Mobile Platform
  4. IBM Worklight

このブログの筆者について

川田 寛

コンテンツサービスの開発や運営代行を専門とする集団「株式会社ブートストラップ」の社長です。ネットではふろしきと呼ばれています。

2009年にNTTグループへ新卒入社し、ITエンジニアとしてクラウド技術・Web技術の研究開発と技術コンサルティングに従事。2015年よりピクシブに入社し、エンジニアリングマネージャー・事業責任者・執行役員CCOなど、様々な立場からコンテンツサービスの事業づくりに関わりました。2021年にメディアドゥへVPoEとしてジョインし出版関係の事業に関わったのち、2023年に独立しています。

関わってきたインターネット事業としては、ECサービスのBOOTH、UGCプラットフォームのpixiv(主に海外展開)、制作ツールのpixiv Sketch、VR・VTuber関連ではVRoid、Wikiサービスのピクシブ百科事典など、10を超える多様なCtoCコンテンツサービス。また、NTTドコモのすご得コンテンツ、メディアドゥのWeb3サービスであるFanTopなど、いくつかのBtoCコンテンツサービスにも関わってきました。

幸運なことに、私はコンテンツに関係する幅広いインターネットサービスのテクノロジー&ビジネスの知識を得ることができました。これを日本のコンテンツ発展に役立てたいと思い、株式会社ブートストラップを創業しました。

このブログでは現在、出版社やIPホルダー、ライセンサーといったコンテンツに関わる人々に向けて、インターネット事業に関するTipsや業界内のトレンドなどの情報を発信しています。私と話をしてみたいという方は、以下のフォームより気軽にご連絡ください。

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